25章 転落人生を味わって

人生

悪夢を見ているような

あの日、順調に日々を送っていたある日、部下からの電話で「バレました・・」という言葉を聞いた時から5年が経った。あの日から転落は始まった。

よく人が言うが「悪い夢なら覚めて欲しい」という言葉がまさにその通り、今でもずっと夢を見ているような感覚である。しかも最悪な夢である。仕事も家族も失って社会的にも罰せられてしまった転落人生を歩む事になった。

社会的に悪いことをしてしまったのだから仕方ない、十分反省しなければならない・・これは十分分かっているしこの前科を一生背負って生きていく覚悟は持っている。

しかし・・どうしても自分中で呑み込めなくいる事がある。

「そもそも社会に出た際にあの会社にさえ就職していなければ・・」

「コンプライアンスを破っていた組織運営をしていたのに被害者として私を罰する事が出来るのか・・」

「会社の最盛期を支え、行政処分と受けた後も一番利益貢献をしてきた私に何故ここまでの仕打ちをするのか・・」

「何十年も一円の昇給、賞与もなく、経費も満足に支給せず、その中で組織を守るために人が辞めていかないように賞与や退職金の準備をしていたのは私利私欲の為ではなかったはず・・」

「多くの先輩社員や役員が皆、裏金を作っていたのに何故私だけ刑事告訴までされたのか・・」

どうしても納得したうえで反省して謝罪を相手方にする気持ちにはなれないでいる自分がいる。

謝罪しなければならないのは家族はじめ私がこのような立場になってしまった事で何らかの影響をうけてしまった関係者の方々に対してである。

 

経験しないと分からない

今まで報道などで書類送検や逮捕・起訴されるニュースを聞いてきて、「終わったな」と簡単に思っていた。私も社会からは「終わったな」と思われているのだろう。正直、近所からの視線もその様に感じないわけではないが、生きていかざるを得ないのである。

どのような犯罪や事件にも背景があって、短絡的、衝動的な犯罪でない限り、そこに至る経緯として理由は必ずある。しかしそれをじっくり聞いて寄り添ってもらえる人は少なく、経験しない限り「終わったな」という判定をされてしまう世の中になっている。

私はそれでもまたここから再始動しようと、収入は三分一からスタートしてギリギリの生活を送っている。まだ執行猶予期間中なので軽はずみなことすら許されない。しかし社会生活はできて、仕事もできる。というよりしていかねばならない。20歳も下の先輩社員に教えを請いて、怒られながらも新業態で働き始めた。

仕事以外ほとんど話す機会や相手はおらず、一人でいろいろな思いと葛藤しながら暮らしている。

金につられてしまう・・これは全人類に共通するテーマかもしれないが、私は特にこの金に関して異常な執着をしてしまった。そして金が全てだと言わんばかりの世界を早い段階から知ってしまった。多くのサラリーマンならそれすら知らないで生きていくのだろうと思う。

若いころは、人から羨まれるような生活をしていたと思う。それが今や人から蔑まれるような生活をしていくことになった。まさに転落人生である。そんな私でも生きていく中でわずかな希望を持って生きている。

何とか人並みの生活を送れるようになったら是非、犯罪を犯してしまった人への更生の為の活動にも関わりたい。

今までいかに自分が自分本位の考え方しか持っていなかったのか、金で物事をはかってしまっていた自分、今まで見えていなかった反省点やモノの見方が出来る様になった。多くの人が去っていった。

しかし、私はこの転落人生を歩んでいく。

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